イヌの薬剤抵抗性てんかん発作を中鎖脂肪酸サプリが抑制~多施設二重盲検試験~
イヌのてんかん発作の有病率は0.6~0.8%と推定されていて、低いものではありません。
原因はよく分かっておらず、複数の薬剤を用いても発作を抑制できないことや副作用が起こること、認知行動異常が起こることがあり、ペットオーナーさんの心の負担となって生活の質(QOL)が低下してしまうこともあります。
一方、中鎖脂肪酸(medium-chain triglyceride;MCT)の豊富なフードでイヌの食事を調整すると、ケトン体の有意な上昇とともにてんかん発作や行動異常が抑制される可能性が、近年報告されています。とはいえ、市販のペットフードの多くはMCTが含まれていないため、MCTをサプリメントとしてフードに加えるという方法も試みられていますが、その有用性は十分検討されていませんでした。
こうした中、MCTにはイヌのてんかん発作抑制作用があるとする、英王立獣医科大学のBenjamin A. Berk氏らによる研究結果が「Journal of Veterinary Internal Medicine」に2020年掲載され、注目されています。その論文の要旨を紹介します。
36家族のペット36頭に半年間介入
この研究には、ドイツ、英国、フィンランドの計5カ所の研究機関、36家族とそのペット36頭が参加して行われました。
研究デザインは二重盲検プラセボ対照クロスオーバー法であり、研究期間中は飼い主と研究者ともに、フードに添加されているものがMCTサプリかプラセボ(偽サプリ)かを知らされていませんでした。
イヌの適格条件は、1剤以上の抗発作薬(antiseizure drug's;ASD)で治療されていて、参加登録前の3カ月間に3回以上の全般発作のエピソードがあり、かつ少なくとも1剤以上のASDに対する薬剤抵抗性(発作頻度抑制効果が50%未満)であることなどでした。
除外基準として、脳外傷や脳腫瘍などの器質的な原因によるてんかん、腎臓・心臓・肝臓・膵臓などの臓器障害、妊娠またはその可能性などが設定されていました。
介入には各イヌの必要摂取エネルギー量の9%に相当するMCTサプリまたはプラセボ(オリーブ油)が添加され、いずれかの条件で3カ月介入後、最初の条件と異なる条件に切り替え3カ月介入。切り替え直後の7日間はウォッシュアウト期間(最初に行われた介入の影響を回避するための期間)として、解析データから除外されました。
主要評価項目は、飼い主の日誌に基づく介入期間中の発作頻度(発作回数と発作の見られた日数)であり、そのほかにケトン体などの血液検査値、飼い主へのアンケートによる「てんかん特異的QOL(EpiQOL)」、および有害事象などでした。
介入中にASDやMCTの代謝に影響を及ぼし得る薬剤が用いられたケースや、てんかん発作のコントロール不良などによる脱落例を除いて、解析は28頭(18犬種)で実施されました。
平均年齢は5.46±2.61歳、体重25.6±13.4kgです。このうち2頭は単剤のASDで治療されていて、9頭は2剤、17頭は3剤で治療されていました。
MCT条件で発作頻度が有意に低下し、飼い主のQOLも改善
主要評価項目である介入期間中の発作頻度のうち発作回数は、MCT条件では中央値2.51回/月、プラセボ条件では同2.67回/月(P=0.02)、また、発作の見られた日数は同順に1.68日/月、1.99日/月であり(P=0.01)、いずれもMCT条件の方が有意に少ないという結果でした。
またMCT条件では、2頭は発作が完全に抑制され、3頭は頻度が50%以上低下していました。
なお、介入の順序や参加研究機関の違いは、この結果に影響を及ぼしていませんでした。
このほか、副次的評価項目のうち、血液検査関連ではβヒドロキシ酪酸がMCT条件で有意に高くなり、ケトン産生が亢進していることが確認されました。
またEpiQOLの評価からは、MCT条件ではイヌの行動異常が減少して、ペットオーナーがイヌの行動異常に悩まされることも減るなどの有意差が確認されました。有害事象に関しては、両条件ともに期間中2回以上観察された犬はおらず、MCTもしくはプラセボに関連するイベントは報告されませんでした。
著者らは、「発作頻度の条件間の差は大きくないが有意であり、一部のイヌはMCTサプリに良好な反応を示した。今後は薬剤が投与されていないイヌ、または薬剤抵抗性でないイヌでの検討が望まれる」と述べています。
※サニメド(SANIMED)でMCTオイルが使用されている脳ケアフードは以下になります。
犬用ニューロサポート
てんかん発作や加齢に伴う認知機能不全症候群の栄養管理のため、MCTオイル(中鎖脂肪酸)含有量を調整した食事です。