ブラックソルジャーフライを含むドッグフードで、タンパク質吸収率が有意に向上

ブラックソルジャーフライ

近年、注目度がじわりと上昇中の、昆虫を用いたペットフード。従来の家畜資源などを用いたペットフードに比べて製造過程での環境負荷がはるかに低いことから、持続可能なタンパク源として高い関心が寄せられています。

しかもメリットはそればかりでなく、昆虫由来のフードはペットの消化吸収にも良いようです。

昨年、「Animals」誌に掲載された、ハノーバー獣医科大学(ドイツ)のChristian Visscher氏らの研究報告を紹介します。

6頭のビーグル犬を対象にクロスオーバー試験

ビーグル犬

この研究では、ドッグフードの一部を、アメリカミズアブの幼虫(ブラックソルジャーフライ)を用いたフード(black soldier fly larvae meal;BSFL)、または家禽由来のフード(poultry meal;PM)に置き換えてイヌを飼育し、消化吸収率や便の性状などへの影響が検討されました。

なお、ブラックソルジャーフライは高タンパクであり、感染症のリスクが低いという特徴が知られています。

検討対象は6頭のメスのビーグル犬で(年齢中央値3歳、体重9.64±0.682kg)、研究デザインはクロスオーバー法でした。

2群に分けて1群はBSFL、PMの順、他の1群はその反対の順序で各10日間飼育しました(前半の5日は順応期間で後半の5日が評価期間)。BSFL、PMはともに、小麦、米タンパク質、亜麻仁、ビール酵母などから作られている一般的な基本食の3割を置き換えたフードとして給餌されました。

フードの総エネルギー量は一定の体重を保つように調整され、水は自由に摂取可としました。

BSFLとPMの主な栄養素含有量は以下の通りです(単位は全てg/kg)。灰分はBSFLが68.2、PMは147、タンパク質は同順に570、733、脂肪は195、83.7、粗繊維は93.0、10.4。また、基本食は灰分が54.9、タンパク質222、脂肪106、粗繊維16.5でした。

評価項目は、〔(摂取量-糞便量)÷摂取量〕で計算される、内因性の損失を考慮しない見かけの消化吸収率(以下、吸収率と省略)と、便性状や排便回数などで、便性状に関しては既報文献に基づき、硬さと形状をそれぞれ5段階で評価しました。

BSFL条件でタンパク質・脂肪吸収率が有意に高く、便性状も良好

では、研究結果を見ていきましょう。まず摂取エネルギー量については、両条件ともにイヌが摂取を拒否することはなく、有意差がありませんでした。同様に水分摂取量も条件間の差はなく、研究期間を通じて体重の変化は認められませんでした。

次に、吸収率を比較すると、有機物と可溶無窒素物については有意差がなかったものの、タンパク質(BSFL82.3±0.97対PM80.5±1.07%)や脂肪(94.5±0.67対91.6±1.01%)の吸収率はBSFLの方が高く、条件間に有意差が認められました(P<0.05)。

続いて排便関連の指標については、排便回数と5日間での排便量(乾物成分)は有意差がありませんでした。

便の性状(硬さと形状)も、両条件ともに理想とされるスコア(5段階評価の2)に近い値でしたが、以下のような有意差が観察されました。まず、硬さと形状のスコアはともにBSFLが2.25±0.38、PMが2.71±0.58であり、BSFL条件の方がより理想スコアに近く、またBSFL条件は湿潤な便の量が多くて(569±37.8対492±34.0g/5日)、乾物含有率が低い(28.0±2.50対33.0±2.62%)という差が認められました(全てP<0.05)。

以上を基に論文の結論は、「本研究に用いられた食餌は、イヌによく受け入れられ、研究期間を通じてイヌの健康が維持された。BSFLを含むフードは有望な代替タンパク質源となることが示唆されただけでなく、吸収率と糞便の質に認められたプラスの影響は特筆に値する」とまとめられています。

また著者らは、昆虫を利用したペットフードについて、「今後は含有されているアミノ酸の生物学的利用能や、昆虫を含有するフードをより長期に摂取することによる食物アレルギーなど、イヌの健康状態への影響を検討していく必要がある」と述べています。

※サニメド(SANIMED)でブラックソルジャーフライが使用されている消化器・食物アレルギーケアフードは以下になります。

サニメド犬用インティスティナル
動物病院専売 療法食 サニメド

SANIMED

犬用インティスティナル

消化機能サポートのため、タンパク質、脂質や食物繊維配合量を調整し、また、食物アレルギーに配慮してタンパク質源を厳選した食事です。

書誌事項

・Insect Larvae Meal (Hermetia illucens) as a Sustainable Protein Source of Canine Food and Its Impacts on Nutrient Digestibility and Fecal Quality. Animals.
・Christian Visscher, et al. Animals 2021 August 27;11(9):2525.

監修獣医師

高橋 宏実
獣医師・ペット栄養管理士

麻布大学 獣医学部 獣医学科卒業。東京都内の動物病院で臨床医として勤務。
その後、獣医師として栄養学をより深く学ぶことで、犬猫の健康を臨床医時代とは違う視点からもサポートできるのではと考え現在に至る。毎日欠かさず動物関係のSNSをみることで日々癒されている。